27歳で湘南に引っ越してきたことりみもちゃん。当初はともだちがひとりもいなくて、すこしづつ、仲間をふやしてきた。あっという間の20年。さいしょは皆、わたしのことを「ことりさん」と呼んでいた。娘のにもちゃんが生まれてからは「ことりさん」から「みもちゃん」にかわった人がおおい。「みもちゃんと、にもちゃん」と呼ぶことが増えたからだろう。けっして嫌ではないが、「ことりさん」と呼ばれるの、わりとすきだった。「ちゃん」よりも「さん」は、ちょっとだけかしこそうだし、どこかよそよそしく距離のある感じも、きらいではなかったから。いまでも、男の人はたいていわたしを「ことりさん」と呼ぶ。わたしも相手を「○○さん」と呼ぶ。「みもちゃん」と呼んでくる男子は『Birds Creation』のジョージくんくらい。わたしもなぜか、彼のことをくん付けで呼んでいる。もし、ジョージくんに「ことりさん」と呼ばれたらなんかこわい。わたしも「こだまさん」とは呼ばない、なんかこわい。
男の人がわたしの名前を「ことりさん」と呼ぶとき、おおむねイントネーションがちがうことがおおい。皆、「り」に向かってあがっていく。正確には「り」にむかって下がっていくのが正解。けれど彼らは「おうまさん」、「うさぎさん」みたいな感じで、わたしを「ことりさん」と呼ぶ。訂正したほうがいいのかなという気持ちと、おもしろがっているじぶんがせめぎあって、結局いわない。かわいらしいから。彼らが、空を飛ぶ鳥を指さして呼ぶようなイントネーションの「ことりさん」。いたずら好きなことりさんは、「はい」とおすましして返事をする。なんねんもなんねんも、チャーミングなミステイクをそのままにして。