修理依頼の連絡がくると、ありがたい気持ちとセットでドキドキがやってくる。波乗りをしていると、波がないよりはあったほうがいいに決まっているのだけれど、サイズがでかいとドキドキする、みたいな感じとも似ている。
ジャケットの裏地の修理の件で、連絡がきた。あの人が着るジャケットだと、きっとあのタイプかあのタイプで、そうすると裏地はうすいコットンか、あるいはナイロンに違いない訳で、ナイロンだとめっちゃむずいだろうな・・・と、この時点でもう縮こまる。打ち合わせの朝も、少し早く目が覚めるほどなのだ。拝見して難しかったら、紹介できる人も頭の中で考えておく。リスクマネージメント能力が高いように見えるが、つまり逃げ足がはやいのだ。
昨日、会って実物を見せてもらった。ご本人が破れているとおもっていたそれは、破れではなくシワだった。つまり縫製ではなくアイロンのほうがよく、それであれば、まずはいつも利用しているクリーニング屋さんにプレスの相談をした方がいい、という提案をした。わたしも業務用のアイロンがあるので、もちろんできる。しかし、長く縫製の仕事をして思うのは、ミシンよりもアイロンの方がよほど技術と経験がいる、というのがわたしの見解。なので、アイロンが専門のクリーニング屋さんの方が、はるかにおすすめできる案件だと判断した。お母様からお譲りいただいたというグレーのウールのジャケットで、襟や裾にハンドステッチが施されている、見るからに上質なものだった。お母様にも一度お会いしたことがあるが、女優のように美しい方だった。天に召されたお母様のジャケットを、面影をしっかりと残したお嬢様のYさんが着る。なんて素敵なんだろう。帰宅したら緊張が緩んだのか猛烈に眠くなり、二時間も昼寝していた。
個人事業主だし、一円でも売り上げをあげた方がいいのだ。是が非でも仕事をとってきたほうがいいのだけれど、なんかできない。というか、したくない。物と人にベストな道を、いつでも正確に、誠実に提案したい。だって、服はわたしよりずっと長生きする。人間として生まれたわたしの短い人生でできること(仕事も言葉もぜんぶ)を選ぶとき、相手にとっていちばんいいと思えるものを差し出せることの方がよっぽど尊いし、それこそが、じぶんの存在価値ではないか。お金が大好きだけれど、時間も大好きなのだ。お金がないときは知恵をフルでつかう。アイデアマンだからなんとかできるけれど、時間がないのは心がつらい。考えたり、試作したり、失敗したりできないから。アイデアを出せないことが、自分はすごくストレスなのだと、最近ようやく気がついてきた。車を運転するのが好きだから、お金を出して車を買うことは何よりの喜びだし、じぶんの人生に車があるのはうれしい。でも、ドライブをする時間がないのはつらい。だったらすぐに売るか、いやその前に、仕事を減らして時間を増やすだろう。前は、車は走ればなんでもいいとおもっていたけれど、最近はちいさくてスピードが出て、スピーカーの音がいいとなおのこと好き、ということに気がついた。マツダのロードスターとか、一度は乗ってみたい。さて、今日はこれから確定申告の作業です。好きではないけれど、そこまでできないこともない。がんばろっと。