昨秋あたりから修理の仕事がふえた。理由は明確。レンバイで働いたことで、対面で持ち込みと相談をしやすくなったからだろう。
企業の中でリペアの仕事に就いていたときは、ある程度のガイドラインがあった。これはやる、これはやらない。こういう方法で、こういう糸色で、というように。当然そのブランドのものだけを扱ってきたけれど、今はそうではないので、知識はあっても経験値はゼロに近い。ひとりで自宅でミシンを踏んでいると、技術の部分ではなく(そこは積み重ねるしかない)、仕事として受けるとき「こういうとき、どうしたらいいのだろう」という疑問がいくつも湧いてきた。わからなくて、聞く人もいないので、サーフボードの修理でながく仕事をしている、『Birds creation』のジョージくんに相談へ。受け渡すものもあった昨日の午後、工房へいく。ちょうど、削りたてのフォームの状態のボードに、布のようになった、繊維のグラスファイバーをまくところで、作業工程を遠くから見させてもらった。布を裁断するようにボードに沿わせてカットして、その上から樹脂みたいなものを流す。そこからは見事な早業だった。硬化との勝負なのだそう。左官屋さんのように、スクレーパーみたいなものを手に持ち、手にはゴム手袋をして、道具と手で、空気がはいらないように板に巻き付けていく。なんか、ものすごいものをみてしまった。サーフボードづくりは、細かな工程がめちゃくちゃおおくて、乾かす時間も必要で、繊細なのに作業は早技が必要で、わたしには逆立ちしても無理そうだった。息を止めてみちゃうような作業だった。
その緊張の作業が終わって、その場にいらしたTさんという男性と三人で小屋に移動して、どら焼き(Tさんの差し入れ)を食べながらコーヒー(ボトルにおとして淹れたやつ)を飲む。即席のおやつタイム。仕事のことでジョージパイセンにいろいろ質問すると、なんでも答えてくれた。業種はちがえど共通することは多々あり「そうなんだ、そんなことをしているのか…」という気持ちでいっぱいになる。仕事とボードには愛が、人には優しさがあるんだなあ、という感じ。Tさんも、ジョージはとっても優しいから、みたいなことを言っていたけれど、本当にそう思うアドバイスだった。偶然お会いできたTさんもとっても紳士的な方で、わたしの質問に対していろいろな角度でアドバイスをくださり、たまたま居合わせることができてよかった。品の良さがダダ漏れしている、博学な感じのおじさまだった。襟付きのブラウンのコットンシャツ。
これまでタイパンツはひとりで縫ってきたけれど、修理に関しては企業の中で大人数で仕事をして来たので、ここにきて急にひとりになり、わからないことがたくさん。考える、感じて考える、ということをたくさんするし、作業は緊張するしで、どっと疲れるけれど、けっこうたのしい。でも、接客業も好きだしものを売るのも好き。そんな仕事の依頼がきたらパッと立ち上がれるようにウォーミングアップしつつ、普段はミシンの技術をあげていきたい。昨日は、頭の中で忌野清志郎の「パパの歌」がずっと流れていた。ジョージくん、あんなに真剣な顔をするのかあ。緊張の作業が終わったら、マスクみたいなのを取って、いつもの笑顔に戻ったのがとても印象的だった。ブルース・リーの格言も教えてくれた愉快なパイセン。今日は今日で、わたしはわたしの仕事をがんばろう。近くにやさしい先輩がいるのは、ありがたい。