中秋の名月だった昨日。朝から『LOGGER』の末綱さんがやってくる。オーダーしていたフィン立ての納品と、オーダーいただいていたタイパンツの受け渡しを、我が家でコーヒー飲みながら。フィンスタンドは全てお任せしてあった。なんとなく、ごつめの木で出来上がるのかなと思っていたら、繊細なアイアンだった。海に流れ着いて、砂浜に打ち上がっているようなアイアン。フィンをセットすると、まるでヨットが帆をあげて走っているように見えなくもない。セットしたいと思っていた『Birds creation』のジョージくんがつくったフィンも、海藻(かいそう)を流しいれて作ったフィンなので、ほんとうにピッタリだと思った。色々と想像して作ってくれたのだろう。それがわかって、本当にうれしかった。 素人は口を挟まないに限る。プロなんだもの。
納品したデニムのタイパンツも、気に入ってくださった様子で一安心する。普段、あまり厚い生地を縫わないので、いつもと縫い方を変えた。知らない生地を縫うのは、いつも神経を使う。裁断したら引き返せないので、毎回緊張する。タイパンツは動き方を想像して縫うのだが、ここは分厚くならないようにとか、布のミミ(端っこのこと)がチラッと見えたらかわいいかなとか、ここをいじったらいじりすぎかなとか、色々考える。『マイナスの美学』を心掛けていて、いかにシンプルに出来るかはいつも課題。ときどき余計なことをしたくなるけれど、そこをしない。服に着られるのではなく、着る人に寄り添うものが理想。着た人が主役。彼らや彼女らが、美しい風景の一部となるような服をつくりたい。それがわたしの理想であり、ものづくりの思想。
駅まで末綱さんに送ってもらって、その後は日暮里の繊維街へいく。急ぎでどうしても必要な布があり、その調達へ。改札を出る前に、日暮里駅の構内でトイレを借りたときのことだ。掃除の人の日本語がすごく上手だったので、帰りがけに「日本語お上手ですね」と声をかけると「うーん、まだまだ!」と笑顔で。「どこの国の方なの?」と聞くとフィリピンだという。「素晴らしいよ、すごく上手です」と言うとニコニコして「ありがとう〜」と。手を洗って出ようとすると「またお待ちしてまーす!」と元気な声がした。他の飲食店でも働いたことがあるのだろう。あんな風に、異国でその国の言葉を使って元気に働く、彼女の逞しさが眩しかった。
布は、定番のものは何軒か問屋さんとお取引があるので、普段はダイレクトにオンラインで注文をする。が、こうして足を運ぶと違うお店の布や、新しい発見もあるので定期的にくることにしている。お取引先の方との、無駄話みたいなご挨拶も大切。仕入れを済ませて、時刻はもうすぐ15時になりそうな時間にやっとランチ。日暮里駅のすぐそばの『川むら』は大好きな蕎麦屋。白穂乃果(しろほのか)というビールがあって、毎回それを頼む。銭湯で知り合いになったおばあちゃんが厨房で働いているので、ご本人がいらっしゃるかお伺いする。昨日はお休みとのこと。残念だが、再会を楽しみに。だし巻き卵ともりそばを食べて店を出て、谷中銀座をぶらぶらする。角打ちができる酒屋でストップバイして、再びビール。その後も商店街をプラプラして、日暮里駅へ戻ってきた。本当は銭湯もいきたいし、なんなら上野まで歩いて天ぷら食べて、あんみつ食べて、もっと言うと鈴本演芸場で落語も見てコンプリートしたいけれど、踵(きびす)をかえす。大人になったみもちゃん。えらいにも程がある。