年末年始をはさんでいたので、最後の『SAUCE』の仕事として各納品者に一週間分の売上金を手渡す、という任務がのこっていた。今週は各々連絡をとってお会いし、それらを手渡すウィーク。昨日も、そして今朝も。あと一人を残して、ミッション終了。
この三ヶ月、いろんな人に会って、いろんな人を紹介してもらった。あるときは「みもちゃんはタイパンツを縫っているだよ」と。またあるときは、「みもちゃんは文章を書く人」とか、「みもちゃんはめちゃくちゃ売るひとなんだよ」とも。自己紹介をするとき「はじめまして、ことりみもです」としか言わない。「縫製が本業ですが、文章も書けなくはないんです。販売は結構得意ですけれどメインのジョブではなくて、過去にはギャラリーの企画運営もしていました」と言ったら「で、あなた、なんなの?」ってなるだろう。
なにかにしぼって頭角をあらわさねば、そう思っていた若かりしときもあった。あの気持ち、どこに置き忘れてきたのだろう。あるいは船の上から放り投げたんだっけ? 記憶にないけれど、今はまったくなくなった。あの人みたいになりたいとか、それだけで食っていくとか、そういう目標に向かって生きることができる人を、素直に尊敬できる。でも、じぶんはできなかった。フルスロットルで邁進すると、すぐにエンストするタイプだと、徐々にじぶんの理解が深まってきたここ数年。おとなになって、やっとこどもになれた。これって変な言いかたかな? 車のエンストよりも、どちらかというと船のエンストにちかくて、海に漂ったまま、動けなくなってしまう。景色を見たり、風を感じたり、そんな時間ばかりが過ぎていく。エンジンをオフにした時にしか見ることのできないスローモーションの風景を眺めて、なにかをチャージしていく。また、漕ぎだすために。
肩書きはなんでもいい。みなさんがすきに決めてください、みたいな境地にいる。捉えどころのないわたしだから、わたしだってわからない。経験を積み重ねることはとても大切だけれど、一つの柱は大事にもっておいて、あとはなんでも、声をかけられたらやってみようかな、なんて思えるようになった今日この頃。縫製の仕事だけはずっと続けていくと決めている。昔からミシンが好きだったし、独学でここまでこれた。なんと言っても「作り手」の気持ちを理解することができる唯一のツールで、そこはじぶんにとってコアな部分をつかさどっている。職人、作家、そういう人の気持ちに寄り添うこと、そしてそれを伝えていくことが、じぶんの天命かなと感じている。命を注げるから。それも、ここ数年で気がついたこと。いや、みんな、気付かせてもらったこと。ギャラリーをやったり、お弁当やお惣菜を売ったりして、じぶんの姿を鏡で見ることができた。毎朝、毎晩、洗面所に立って鏡をのぞいていたのに。この瞳にいったい何をうつして、何をみていたんだろう。こんなにも、長い間。