中学まで公立の学校に通っていたわたしは、高校受験で町田市にある和光高校に入学した。7歳上の兄が通っていたから自由な校風を含めて学校のことは把握していて、他に行きたい学校はないほど、入りたかった。とはいっても勉強は嫌いだったので、エンジンがかかったのは秋頃で、必死に勉強してなんとか補欠合格。一生分の運をつかったかも、と思うほど嬉しかった。
幼稚園と小学校は世田谷の経堂にあるので生徒の半分以上は都内の子だったけれど、神奈川県の子も結構いた。小田急線の各駅停車しかとまらない鶴川という駅から、さらにバスに揺られて20分ほどの山の上にあったので、高田馬場から1時間半ほどかけて通学していた。7時31分新宿発の急行に乗る。多摩川を越えるとき、川の水面がキラキラと光る。それを見ると学校が近づいてきたとおもって嬉しいと、母に言っていたそうだ。まったく覚えていないけれど。その言葉を聞いて、母はとても嬉しかったと、のちに教えてくれた。
神奈川方面に帰宅する子たちは、町田駅で下車して放課後に遊ぶことが多かったみたいだ。反対方面に帰る都内組は、下北沢で下車することがおおかった。シェーキーズに行きたい時は成城学園前駅で下車、カプリチョーザに行きたい時は下北沢。制服がなかったので、フランス系のファッションが好きな子はアニエスのボーダーにエルベシャプリエを背負って、アメリカ系のファッションを好む子はデッキーズのチノパンとか、男の子はスラッシャーのパーカーをきてスケボー持って、みたいなのが流行っていた気がする。わたしは当時からアメリカ好きだったので、下北沢は古着屋もおおくて楽しいまちだった。カレッジトレーナーとか、Tシャツとか、たくさん買った。あと、関西人が焼く美味しいたこ焼き屋もあって、よく寄り道をしたものだ。
下北沢の思い出のひとつに、美容室がある。姉の紹介で通うことになったのだが、マンションの一室で美容室をしているSさんという男性がいた。今思うと、あれって営業はOKだったのかな?と思うけれど、結構おしゃれな人で会話もたのしく、何年も通っていた。Sさんはのちに恵比寿でお店を出したけれど、マンションの時の秘密基地感はもうなくて、結局そこで縁は途切れてしまった。
その下北沢の美容室で、BGMとしてかかっていた曲がすごく響いて、「このCDなんですか?」と聞いたのがスティービー・ワンダーだった。『コンタクト・オン・ラブ』という曲で、なんていい曲なんだろうと、すぐにCDを買った。それがスティービー・ワンダーを好きになったきっかけ。
振り返っておもうと、じぶんの好みや方向性がけっこうしっかり見えてきたのが高校時代な気がする。好きな音楽、好きな服装や色、好きな国とか、そんなことを考えるようになった。アルバイトも、当時は雑誌で探す時代で、気になった募集があると、まずはお店に足を運んで、制服が好きかどうかを判断基準にしていた。色が好きじゃないなとか、襟が嫌だなとかおもうと、応募はしなかった。長続きしたのは西新宿にあったちいさな『ニューヨーク・カフェ』というカフェで、ひとりでお店番ができた。制服もあってないような感じで、オーナーも可愛がってくれて、一緒に波乗りしたり、スケボーしたりして。ミルクのポーションを入れる器ひとつでも強いこだわりがある人で、河童橋で柳宗理のちいさなボールを気に入って買ってきたとき、バイトの子は「なにが違うんだろうね、おなじなのにね」と言っていた子もいたが、わたしはそんなこだわりのあるYさんを尊敬していた。それが柳宗理を知ったきっかけでもある。ニューヨークへの偏愛が強く、「ミモももう少し大人になれば良さがわかるよ」と言っていた。当時のわたしは圧倒的に西海岸が好きで、のちにニューヨークもいったけれど、やっぱりカリフォルニアが好きなのに変わりはなかった。ニューヨークは都会だったけれど、都会の中にセントラルパークがある感じや、みんなよく歩くこと、眠らない感じなど、東京に似てるなと思った。素敵な街ではあったけれど、自分はやっぱり海が好き、と再確認ができた。ニューヨークにいったのは、結局その一度だけ。
振り返っておもうと、つくづく自分はなにかを決められることが苦手で、制服も、校則も、足並みをそろえることも難しいということだ。いっぽうで、美容室もアルバイトも、ちいさな場所が好きだということ。よーく、よーく記憶をたどっていくと、あまり成長していなくて、16歳くらいからなにも変わっていないことに気が付く。それは自由を得た高校生活のおかげだし、もっと言えばその前の三年間、制服を着て通った中学校生活を経験したことも大きい。娘はもうすぐ中学生。靴下はこう、ワンポイントはだめ。ヘアクリップもだめ、書類を読んでいるうちに、じぶんのことみたいにゲンナリしてしまった。制服、大丈夫なのかなと思う時があるけれど、わたしが口出しすることでも、心配することでもないのだ。さて、どんなティーンエイジャーを過ごすのだろうね。君に、幸あれ。