毎年のことだが、8月31日の娘はこわい。着替える余裕もないのかパジャマ姿で、朝から夜まで宿題と格闘している。書けない作家が締め切り直前にホテルで缶詰状態、みたいな殺気である。一つに結(むす)んだロングヘアもボサボサで、ビジュも全然いけてないご様子。同級生のLINEのストーリーズ(インスタが使えない12歳はこれが主流)をみては「いいなあ、リア充だなあ。なんではやく宿題やらなかったんだろう!涙」などぼやく。昨日はApple Musicで天国と地獄をBGMにし、自らを奮い立たせていた。夏休み明けの本日、滑り込みセーフを感じさせない涼しげな様子で、かわいくポニーテールをして登校。オンとオフのはげしいバブちゃん。
昨日、夫とテレビを観ていた時のこと。番組に本棚が出てきたとき「あ〜読んだなあ、おもしろいんだよねえ」と言ったのをわたしは聞き逃さなかった。結婚して21年、夫が読書をしている姿を見た記憶がないので、てっきり本を読まない人だと思っていたのだ。「え! どういうのを読んでいたの?」と聞いてみたたはものの、言われた全部の作家名が一人もわからなかった。その後よーく思い出してみると、付き合った当初、確かに夫の部屋には本棚のようなものがあったことが、映像として鮮やかに蘇ってきた。
付き合う前は映画館をハシゴして一日に三作品観るような人だったらしいし、本も好き。加えて一人で美術館に行くほどアートも好きだった夫。そういうことはぜんぶ興味がなかったわたしは、心底趣味の合わない人とお付き合いしたことになる。出会った時はヨット部のOBという仮面をかぶっていたので、てっきり海の男だと思っていた。若かったわたし、騙されたんだわ! 一方、当時二十歳だったわたしはいっときだけのギャルブームが到来。都会的な女性が好きだった夫は、うっかり勘違いしてわたしとお付き合いをスタート。ヒールなどのキレイな服ブームは一瞬で飽きてしまい、夫も好みの女性とはかけ離れた人と付き合っていたことになる。思い込みと勘違いからスタートして、結成28年のオレたち。
一緒に暮らす中で、アジア好きだった夫を無理やりハワイ好きにねじ伏せたわたしと、美術館など一生行くことがなかったであろうわたしを、旅先で必ず美術館に連れていく夫。結婚、それは歩み寄りなのかも知れぬ。娘はそのうちに巣立っていくわけで、夫婦は基本譲りあいと小競り合いを繰り返しながら、いきていく。お酒、旅、海、波乗り、ヨットと、かぶる趣味を大切にしながら、これから先も末長く。