LAに住む叔母に、以前「なんで歯医者さんの仕事から美容師になったの?」と聞いたとき「ナイン・トゥー・ファイヴの仕事に飽きちゃったの」と言っていたことを、時折思い出す。叔母は都内の短大を出てから、数年間は日本で秘書として働いていた。仕事帰りに『アテネ・フランセ』で英語を学び、お金を貯め、自力で渡米した叔母なので、そもそもそんなに若いスタートではなかったはずだ。時(とき)は1970年代、当時ならなおのこと「結婚は? え、アメリカ!?」とか、色々言われただろう。1ドル360円の時代でもあった。そういう時に単身で渡米した叔母。「3ヶ月で帰ります」といって、3年帰ってこなかった叔母。破天荒なMy Aunt.
そこからはデンタルクリニックの受付の仕事をし、さらに美容学校へ通い、ライセンスを取ってヘアデザイナーに転職して今に至る。わたしが叔母の家に入り浸っていた頃、叔母は美容師で大忙しだった。フリーの美容師で、カスタマーからダイレクトに携帯に電話がかかってくるシステムだった。電話が鳴るたび、「ハロウ?」と優しい声で応えて、すぐに手帳を広げる。びっしり書かれた予約表の中、なんとかアポイントメントを入れてあげられないかと調整していた姿を思い出す。早朝からヘアカットとか、自分のランチを飛ばしてまで予約を入れてあげている日もあったし、ときに、「今日は夕方のアポイントメントを入れないから、みもちゃん外にご飯を食べに行こう!」とドライブに連れていってくれたりもした。色々な国のひとにわたしを紹介してくれたし、自分の働く姿も、大いに見せてくれた。始めるのに遅いことはないと、叔母を見ているといつでも思う。同時に、働く時間が『ナイン・トゥー・ファイブ』である必要もないと教えてくれた人。わたしは早朝から仕事をするのが好きだ。途中休憩を挟んでまた働くのも好き。視点や視界が変わるのがいい。よく「タイパンツ縫ってからきた」というと、会う人には驚かれるが、自分はそんなに驚かない。『仕事』や『労働』という言葉のイメージや意味は、人それぞれ。

昨日は二宮へ。改札で待っていてくれたのはKちゃん。一度ゆっくり話してみたいと思っていた人で、お声掛けをしたのはわたしから。当時わたしが由比ヶ浜で運営していたギャラリーにも何度か足を運んでくれて、顔を合わせれば少し会話をする程度のKちゃん。昨日は駅前の『ミニストップ』でビールを買って、『ブーランジェリー・ヤマシタ』でハンバーガーを買う。Kちゃんは自宅から持参の白ワインを持って、えっちらおっちら、吾妻山へ。改札が一つしかない二宮の駅も、その町並みも素晴らしいけれど、なんと言っても吾妻山公園。山頂から眺める雄大な景色、風、太陽、Kちゃんとの会話、全てが素晴らしい一日だった。彼女のやさしい感性に触れた気分で、お互い「たのしかったねえ」と言い合いながら下山。Kちゃんの、考えながら言葉を選ぶ間とか、決して人のことを悪く言わない言葉の選び方が、なるほど、すごく彼女らしい。反対に、自分が大好きだと思うもの、人、場所には饒舌になる。清らかな川の流れが突然早くなるみたいな感じで、緩急ある川下りみたい。聞いていて、すごく愉快だった。色々なことをあらゆる角度からとらえて、まずは咀嚼(そしゃく)しようという努力する姿勢があるひと、という感じ。「パンが大好きすぎで、パン屋では勤めないって決めてるの」、と言っていたのもすっごく可笑しかった。太っちゃうからって意味なの?
家族のことが大好きで、家族のことを話している時もごく嬉しそうだった。食べることと飲むことも心底大好きそうだし、仲良くなれてうれしい。声をかけてみてよかった。「またすぐあそぼう、またね」と改札で別れる。戻って仕事のメールや電話、雑務を終えて、そんな感じの一日。働いたり、遊んだり、また働いたり。いつものことなんだけど。さてさて、今日はどんなふうに。