「さいきんはなにしてるの」とよく聞かれる人生で、聞かれると「なにしてるんだろう」とふと考える。夏以降は「忙しかった夏の疲れをいやしてる」と答えていたけれど、明日から11月だし、この返事もそろそろ賞味期限が切れる。ここしばらくは家でミシンの仕事をしながら家事もするし、家族をケアし、自分もケアをし、書き残したいことがあれば文章を書き、声が掛かれば街にも繰り出す。昨日はビール仲間の友人が鎌倉へ。吞もうと声をかけてくれたので、<VANA VASA>の店頭で昼からダラダラ。互いにこれといった報告もないまま呑んでいると、店主が店頭の石油ストーブをつけてくれた。じんわり暖かくていいねえ、明るいうちから呑むって幸せだねえ、なんて言いながらも延々と呑んでいると、そこに灯油の配達でおじさんがやってきた。その場で店のポリタンク容器に詰め替えている。ビール仲間はちょうどトイレで席を外していたので、そのおじさんの手際をぼーっと眺めていた。そのとき、20年くらい前の記憶がフラッシュバックして、ひとりでニヤニヤしてしまった。
30歳の手前くらいに、葉山で文章を書くワークショップに通っていた。そのときの先生が、自分の師匠にあたる美術作家の永井宏(ながい・ひろし)さんなのだが、そのアトリエにも石油ストーブがあった。その日、仲間の一人が永井さんに言われて、ポンプをつかって灯油を入れる作業を試みていた。彼は扱い方をよくわかっておらず、ポンプから灯油が勢いよくこぼれてきて、玄関の土間に広がってしまった。「うわあああ!」となり、永井さんも「君たちは灯油の入れ方も知らないのか!」みたいな感じでわりとしっかり叱っていた。状況的にあんまり笑えないのだが、「バッカだなあ」と笑いを堪えていたわたしもまた、扱い方を知らなかった。昨日、その日のことが急によみがえってきた。アトリエのキッチンには<MJB>とおおきく書かれたグリーンのコーヒー缶がいつもあった。早くきた人がコーヒーを淹れる。わたしはいつも遅刻気味の生徒だったので、灯油もコーヒーも手伝った記憶がないけれど。月に一度集っていたアトリエの空気感を、忘れることはないだろう。「ワークショップってなにしてたの」も、よく聞かれる。「なにしていたんだろう」と振り返るが、うまく答えられない。なにもしていなかったような気がする。なにもしない、ということを学んでいたのかもしれない。それには工夫が必要で、想像力も必要で、笑いも必要不可欠で、案外クリエイティブな時間だったのかも。そんなことを思い出した昨日の午後、鎌倉でビールを呑みながら。