7月に出張で福岡へいった。急遽仕事で参加することが決まったので直前にホテルを手配したのだが、びっくりするほど高かった。なにかのお祭りに加えて、世界水泳も開催中だから、というのが主な理由のようだった。大濠公園(おおほりこうえん)のそばのドミトリーに二泊。普段なら3000円から宿泊できるようだが、その日は2泊で3万近かった。バンチベッドで3万!?マンハッタンみたいじゃん!と思いつつ速攻で予約。
おかげさまで宿は快適で、レンタルサイクルを乗り回して搬入から設営、営業や挨拶回りに観光など、市内をぐるぐる。聞けば、明日は「博多山笠(はかたやまかさ)」という祭りがあるという。4:59からはじまるのだ、と。せっかくだから行ってみようと思い、翌朝4:30に起きて自転車で向かう。なんとなく向かう。地元の人っぽい人が急いで自転車を漕いでいたので、「あの人も山笠を見に行くに違いないわ」と思い込んで、無意識のうちに尾行。しかし、漕いでいるうちにふと、「あの人、バイト先に急いでいるとかだったどうしよう? この方角で本当に合っているのかな?」と不安になってきた。ふと前方に目をやる。ゆっくりと歩いていた一組の夫婦に目が止まった。ペダルを漕ぐスピードをゆるめて、声をかける。
「すみません。昨日から出張できていて、博多山笠というのを見たいのですが、方角はこちらであっていますか?」と聞く。すると、「自分達もこれから見にいくから、もしよかったら一緒に向かいましょう」、と。レンタルサイクルを途中のポート(乗り降りがすごく便利なシステム)に返却して、一緒に歩く。パジャマの代わりにしていたパタゴニアのTシャツとバギーズショーツはまだしも、この寝癖くらいは直すべきだったし、お化粧もするべきたった、マスクをしていないことを嫌がられていないかな、と思いながら。
ご夫婦は福岡のご出身で、色々な街案内をしてくれた。「ブラタモりみたいで楽しいです!」と言うと、「この人歴史とか大好きなのよ」と奥様。なるほどなあと思った。途中、ホテルオークラの前を通った。ふと、父の顔が浮かぶ。年老いて旅行などは難しくなった父の話をご夫婦にしながら「連れてきてあげたかったなあ、オークラが大好きなんですよ」とわたし。博多にニューオータニがあるのは前回路面バスの中から見て知ったが、オークラもあるのか。すごいなあ、福岡。どちらも父が大好きなホテルだし、下町で育った父なので、きっと山笠祭りなんかも見たら喜んだだろうなあ。あれ? なんでだろう、この土地は何度もパパを想う街みたい。不思議。
祭りがはじまると、それはそれはものすごかった。何がすごいのか。まず、あんなにたくさんの人のお尻を見たことがない。映画ミニオンズの監督は、ここから着想を得たのではないかとマジで思うくらいに、老いも若きも、男子がお尻をぷりぷりと出して街をかけずり回っていた。大きなお尻、小さなお尻、柔らかそうなお尻、堅そうなお尻。同じお尻はふたつとしてない。みんな、かわいい。
祭りは大変におもしろかったし、格好良かったし、最高だった。感情がスパークしてしまった。大興奮で終わり、きた道を、ご夫婦と一緒に帰る。自分は布を扱う仕事をしていて、故に祭りの格好や布、その柄もに心を奪われた、と言う話をする。「だったら帰り道に祭り屋があるから教えます」と、とある小さなお店をおしえてくれた。「ハンダ」と書いてった。写真におさめる。
H夫妻はほんとうに親切で、「こんなに朝早くなかったらコーヒーでも飲めたら良かったですね」と言いながら、自宅を通過して大通りまでわたしを見送ってくれた。タイパンツというパンツの展示で薬院に来ていること、それ以外にはアウトドアブランドのリペアサービスをしている話などをすると、奥様が弊社のブランドのファンであることがわかり、盛り上がる。毎年ハワイにいくと、ラハイナのストアでおかいものをするのが大好きだとか。ここ数年はコロナでハワイにいけていないけれど、と。「サーファーさんですか?そんなふうに見えたから」と聞かれた。控えめな感じの、優しい女性だった。祭りを見ている間も、常にご主人とわたしよりも後ろに立たれていて、振り返ると「どうぞ」と何度も前を譲ってくれた奥様。
別れ際、ご主人がお名刺をくださった。税理士さんだった。個人事業主なので、春は毎年確定申告で苦しんでいる話など、面白おかしくする。いつか福岡に住んだら、お仕事をお願いしたいとわたし。うんうん、とHさん。そうして、またねとバイバイ。ホテルに戻ってすぐ、メールアドレスへお礼のメールを送る。H夫妻はこの旅のキーマンで、この後わたしが祭り屋「ハンダ」でどれだけスパークするか。この時のわたしは、まだ何も知らない。