先月、何年かぶりに再会を果たした織り作家の中島寛子(なかじま・ひろこ)ちゃんと、「近いうちにゆっくり鎌倉で会おう」と約束して決めた日が、昨日だった。天気予報のとおりに、外は嵐。でも負けない。楽しみにしていたのだ。
見せてあげたい本があったので、説明するための復習として朝に再読し、濡れないようにジップロックに入れた。午前中にミシンの仕事も終わらせた。嵐だったので、鎌倉駅周辺の駐車場の下調べも完璧。用意周到。こわいくらいに出来過ぎくんであった。こういうゆとりのある朝は、大抵洗濯物を干し忘れていることがおおいのだが、そんなミスもなし。大人として、遅刻はあってはならないので早めに家を出ると、外の雨は思いのほか弱まっていた。これならバスで行けるなと、頭を切り替えてバス停へ。間髪入れずにバスがやってきたので、乗り込んだ。順調の一言。ところが、である。バスに数分乗ったあたりで、嫌な予感が頭をよぎった。「あれ、アイロンの電源、消したよね?」と。
「鍵しめたよね?」とか、「ガス消したよね?」とか、これが一年に2回くらいたまーにあっって、気になって念の為に帰ると120%失敗はないのが恒例。でも、やっぱり気になってしまい、バスを降りて反対側のバスに乗り換え、Uターンし帰宅。最寄りのバス停を降りると、さっきの弱い雨はどこへいったんだい?と空に聞きたいくらいの暴風になっていて、傘はひっくり返りそうになるし、パンツも足元がめちゃくちゃ濡れた。帰宅してアイロンをみると、電源はオフ。なんならいつも以上にキレイに整えて片付けてあった。はい、遅刻です。ひろこちゃんに「ごめんなさい」と連絡をして、パンツを着替えて、再びバスへ。30分くらいの短時間で、バスに乗ったり降りたりまた乗ったりと、バスだいすきおばさんのような動きをとったじぶん。やっぱり、最初から車にするべきだったのかもしれない。
寛子ちゃんと鎌倉駅で待ち合わせをして、駅のそばの<sahan>へいった。sahanは仲間の一人のみーやんこと、高階美佳子(たかしな・みかこ)さんが切り盛りする店で、寛子ちゃんも行ってみたいお店だったようで、ちょうどよかった。カウンターの席に腰をかけて、弱まったり強まったりする雨を眺めながら、本当にゆっくりといろんな話をして、うっかり雨が好きになりそうだった。定食をいただいてからもまだ話足りず、わたしはコーヒーを、寛子ちゃんはレモンミントティーを追加でオーダーした。
<sahan>はこの秋で15年を迎えるお茶とごはんの店。ビールも呑めるので、個人的にはよくビールを呑みにいくのだが、本来はこういうシチュエーションにぴったりの店なんだなと、14年通ってはじめて知った。みーやんは雑貨屋に勤務していたことも影響があるのかもしれないが、器や家具やおようふくなどの審美眼を養っている。たんに知識があるのとは違って、造詣(ぞうけい)が深いようにおもう。それだけたくさんの時間とお金を注いだのではないか。積み重ねたであろう経験をひしひしと感じる。その表現として、彼女は店をやっているように、わたしの目には映る。それは料理にもあらわれていて、味、盛り付け、提供のスタイルなど、みーやんの思想が作品になっている。雑貨好きなら誰もが知っている<Zakka>に作品が置かれている寛子ちゃんのこともさすがみーやんは知っていて、二人は尾山台だったか、わたしは知らない服屋の話などもして、楽しそうに言葉を交わしていた。
寛子ちゃんとわたしは、<Zakka>の店主の吉村さんと、ご主人の北出さんのおかげなのだが、お二人を通じて知り合って、すれ違うように何度か顔を合わせていた。わたしが由比ヶ浜のギャラリーの運営をはじめたときも、家族で遊びに来てくれたり、妙蓮寺の<本屋・生活綴方>でお世話になったタイパンツ展にも、寛子ちゃんは足を運んでくれていたことを後で知った。ピンク色の、柄もののタイパンツを選んでくれていた。お互いの活動をとおくから見守るような感じで、わたしにとって、その存在を大切におもっている一人だった。とはいえ、そんなにお互いを知らなかったのだけれど、昨日ようやくゆっくり話をして「へー!」という感じで、「とりあえず、次は鎌倉の山側を歩こう」ということになった。
店を出ると雨は弱まっていて、傘をさすかささぬか迷うくらいの霧雨だった。傘さす?と聞くと、メガネが濡れるね、みたいに答えた寛子ちゃん。<sahan>で、「カウンターとテーブルどっちがいいですか?」と聞かれたらカウンターがいいと、「壁側と手前側、どっちがいい?」とわたしが聞くと手前がいいと言った。決断のはやいかんじが、すごく寛子ちゃんらしかった。わたしは来た波に乗る方が好きなので、こういうタイプの人が、一緒にいてすごく楽なのだ。<DAILY by LONG TRACK FOODS>に寄ってパウンドケーキを買いたいというので、一緒にくっついていった。以前、わたしが運営に携わっていた由比ヶ浜のギャラリーで、毎年12月に『家族写真撮影会』というイベントをしていたのだが、寛子ちゃんはそこにいつも家族で参加してくれていた。その返り道に、デイリーに寄ってシュトレンを買うのが恒例だったんだと、昨日道すがら教えてくれた。ギャラリーの運営は、楽しいことも素晴らしい出会いもたくさんあったけれど、当時はとにかく運営に必死で、正直なところ大変なこともおおかったが、やってよかったなあとしみじみ思わせてくれた。その運営を、「みもちゃん、やらない?」ととつぜん声をかけてくれたのは、馬詰佳香(うまづめ・かこ)さんだった。昨日はたまたま馬詰さんが<DAILY>の店頭に立っていた事もあいまって、まあるいサークルがひとつ完成されたような、不思議な気持ちに包まれた。
鎌倉ってやっぱりいいとことろだ。どの季節も、どんな天気も、それぞれに魅力があって、音をたてずに、そっと光の粒を放っている。店でご飯を食べているだけなのに、街を歩いているだけにも関わらず、小説のような、小説の中にいるような、そんな風が吹く瞬間がある。それは潮風でもあり、山風でもあり、吹かれたほうがどう感じてもいいんだよと、そんな包容力を感じるような風が、街に、ときどき吹く。